【第27話】たまには思い出話でも

 

 ヌキワさんが

 

包丁を持って立っていた。

 

 

 

店の前に・・

 

あまり気分のいいものではない。

 

 

「ヌキワさん。」

 

 

 

俺はヌキワさんの

 

名前を普通のトーンで呼んだ。

 

 

 

酔眼の目が一瞬俺をみた。

 

 

包丁の切先は

 

俺に向けたままだ。

 

 

 

俺にはわかっていた。

 

 

酔っ払っていても

 

本人の名前を呼ぶと

 

一瞬・・一瞬だが

 

脳みそにスイッチが入り

 

話が聞ける状態になるのを。

 

 

 

最終電車で駅員が酔っ払いに

 

「お客さん終電ですよ」

 

と同じ感じだ。

 

 

一瞬スイッチが入った瞬間に

 

俺はさらに訪ねた。

 

 

「なにしてんだ。」

 

ヌキワさんは

 

こう答えた。

 

 

 

「マスター・・

 

カウンターのサラリーマン・・

 

あれ・・

 

あれでいいのか・・」

 

 

俺はそれでわかった。

 

 

 

ヌキワさんは

 

自分が帰らされて

 

サラリーマンが残されたので

 

逆恨みしていた。

 

サラリーマンに・・・。

 

 

 

すこし話が通じると

 

感じたので俺は話を続けた。

 

 

『それは玩具じゃないぞ。

 

この先刑務所で刑務官に

 

虐められて残りの人生過ごすか・・

 

 

それともアンタのガキの成長を

 

娑婆で見るのか

 

どっちにするんだ。」

 

 

 

ヌキワさんは、ガキ・・という

 

言葉に

 

引っかかったのがわかった。

 

 

 

出稼ぎの職人たちは子供・・

 

というキーワードに弱かった。

 

 

ヌキワさんは

 

静かに包丁を下げた。

 

 

 

そして・・・

 

2階の自分の部屋に

 

戻っていった。

 

 

 

彼は焼き鳥屋の

 

2階に住んでいたのだ。

 

 

 

次の日

 

ヌキワさんが店に6時ごろ来た。

 

 

「マスター

 

つくねと・・生ビール」

 

 

 

昨日のことは

 

スッカリ頭にないようだった。

 

 

 

俺が聞いた。

 

 

「昨日、包丁もって

 

店の前に立ってたぞ。」

 

 

 

ヌキワさんは答えた。

 

小さい声で。

 

「マスタ・・ごめん・・」

 

 

俺は思った。

 

 

 

覚えてんじゃねぇか・・・。

 

と(笑)